人事にインタビュー!海外経験者が初めての転職前に知っておきたい人事の本音
倉田さん
大学卒業後、通信企業に入社し、3年間の法人営業を担当後に人事へ異動し、5年間大手企業の採用を手がける。その後転職したIT企業2社においても人事を役職において担当するなかで、転職エージェントの立ち上げにも携わり、人事・転職者・エージェントの3つの立場を経験する。現在は3社目のIT企業にて部門長として人事で採用を担っている。
留学経験者専門の転職エージェント『Beyond Border』。
転職先で活躍し長く働くために、どのようなことに注意して選考に臨めばいいのか。企業が求める人材像や面接での具体的な確認ポイントなど、人事の本音をKさんに教えていただきました。
人事・転職・エージェント、3つの立場を経て来たキャリア
Q.簡単なご経歴を教えてください。
A.大学を卒業し、1社目は大手の通信業界に8年間ほどいました。初めの3年間は法人営業をしていましたが、25歳のときに異動してからの5年間、そしてその後2社のIT企業に転職してから今までずっと、人事をしています。18年間の社会人人生を、営業で3年・人事で15年と歩んできたなかで、自身でも転職や転職エージェントの立ち上げをするなど、3つの立場を経験してきました。
1社目は入社当時小さかったのですが、当時流行っていたMAで同業買収が進み、最終的には従業員3千人規模の大企業になっています。
海外経験者の中途採用を行っていたのは主に2社目になります。創業5年目くらいで従業員300人ほどのベンチャー企業で、サブマネージャーとして中途入社し、人事の立ち上げを経て1年ほどで課長になり、最終的に部長まで昇進しました。今働いている3社目は創業20年ほどのある程度基盤ができているベンチャー企業で、部長として入社しています。
企業が求めるハングリーさとクリエイティブ性
Q.今まで採用された海外経験のある中途採用希望者には、どのような特徴がありますか?
A.2社目の採用をしていた当時に社長から特に言われていたのは、「孤独に耐えられるかどうか」を重要視するようにということでした。海外赴任してもらうにあたって必要な要素だと。いわゆるメンタルの部分ですが、「ハードワークに耐えられるか」と「挫折経験がどれほどのものか」という2点をよく見て探るようにしていましたね。
Q.具体的にはどのような質問をして探られていたのですか?
A.「挫折した経験はありますか」といった失敗事例の質問をします。やはり履歴書には成功事例しか経歴として書いていないので。なかには大学のサークルで会計処理を間違えたことが挫折だと答える人もいますが、そういうことではなく、厳しい環境下で失敗しつつも乗り越えてきた、というようなハングリーさが伝わる人をいいなと思いますね。
Q.会社が変わると求める人材像も変わりますか?
A.変わります。1社目は大手だったこともあり、体育会系タイプというか、挨拶や礼儀、縦社会の常識を分かっているような人を求めていました。ヒューマンスキルが優れている人ですね。
2社目はワンマン社長のベンチャーだったので、体育会系というよりも、社長の理念に共感できる人を求めていました。化粧品を扱ってはいたものの、夜中まで仕事をしているような会社だったので、心は女性・肉体は男性のような人をエージェントに依頼していました。
3社目もベンチャーでしたが、1社目と2社目の中間と言いますか、比較的バランスが取れた人を求めることが多いですね。
Q.3社目で海外経験者を採った経験はありますか?
A.今のところ一人だけです。大学はそこそこの英語力やお勉強で行けてしまいますが、仕事は答えがないものに対して自分で答えを導いていく必要があるので、発想力やクリエイティブ性を重要な採用基準の一つにしているんですね。ただ、あまり面接でそういったものを将来的に感じさせる発言が出てこないのが実情です。海外経験があってクリエイティブ性もあって…という人は転職活動で大手に行ってしまいがちで、なかなか出会えていません。新しい海外プロジェクトを始めるにあたって採用必須のポジションがあるので、頑張らないと事業ごと倒れてしまいますから、現在転職エージェントにかけあっているところです。
企業との相性を見極めるには
Q.言語力以外に海外経験者には何が求められていますか?
A.万人的なところでいうと、いかに会社の経営理念に共鳴できているか、ですね。最終面接などでは、企業研究が十分にされているうえで、トップとの相性が合うか合わないかを特に注視しています。これは3社とも共通して言えることですが、どれだけいい人材でもフィーリングが合っていないと、やりたかった仕事もやりたくなくなったりしてしまって、結果を出す前に辞められてしまうことがあるんです。トップとの相性が合えば会社とも合うという仮説のもと、そこを見るようにしています。そういう意味では、職種や業界ありきで、面接でもそれらを中心に語ってくる人はどうかなと思ってしまうところがありますね。
Q.求職者は企業との相性が合う・合わないをどのように判断すればよいでしょうか?
A.面接官との相性を面接でどれだけ探れるかだと思います。正直、HPを見ても分かりませんよね。履歴書の志望欄に「御社のHP/求人票を見て合致すると思いました」と書いて来る人もいますが、それをこちらが鵜呑みにすることはありません。企業側も、選考フローの中に必ず現場の担当者を2、3人入れて求職者と接触するようにして、それを経たうえで最後にトップとの相性を見ています。
有力だなと思う人に関しては、最終面接手前の2次面接と3次面接の間に食事会を設けています。面接だとどうしても堅苦しくなってしまいますし、面接だけで相性を探るのは難しいので、お互い素が出せる状態で会話できればと。ミスマッチが生じないように条件なども全部正直に言ってもらっていますね。ネガティブなものが多いネット上の情報よりも、生の声とか言葉を大事にしてくれる人の方がいいなと思います。
Q.相性が合うかを探るために、面接中に求職者側から質問してもマイナスな印象になりませんか?
A.むしろポイントの一つに質問力があって、例えば面接の最後に「質問どうぞ」と言ったときに、最悪なのは「何もありません」という返しですよね。興味ないんだな、企業研究できてないんだなと思ってしまいます。
また、せっかく逆質問しても、面接官から返答があったときに「はい分かりました」で終わってしまうのももったいないですね。「ということはこういうことですか?」と、一つの質問から横展開ないしは掘り下げられる人は、おっと思います。
長く働いてもらうために選考で確認するポイント
Q.実績・実務スキルとヒューマンスキルどちらを重要視しますか?
A.ヒューマンスキルを優先するときは募集ポジションが主任や管理職といった役職ではないときですね。管理職以上はポテンシャル採用ではないので、どちらかというとこれまでの経験や実績・実務スキルがある方を重視します。
何十回と面接をしていても、やはり働いている姿を見ていないので未知数なんですよね。会社側からすると毎月給与という固定費用を払うので、大きい金額の場合になると打撃が大きいですし、社内へネガティブイメージが広がってしまうので、リスクが大きいんですよ。だからヒューマンスキルも実績・実務スキルどちらも重要視する、高い採用基準になっているかなと思います。
Q.退職理由は採用に大きくかかわりますか?
A.やはり未知数と言えど、期待としては長く働いてほしいんですよ。前職批判はその理由がわがままだったら採りません。特に労働時間・労働環境批判で、ちょっと働く時間が長かったとか、上司が○○だったといったことは、ベンチャーに限らずどこの会社でもありますよね。というわけで採りません。
面接ではポジティブな意見を言うように指導されていたりしますよね。転職エージェント事業の立ち上げもしてきたのでそのあたりも知っていますし、自分でも転職していますのでそれは織り込み済みです。なので退職理由については「こうだったらどうしますか?」とケーススタディで質問して実情を探るようにしています。
Q.履歴書・職務経歴書のなかで最も注意深く見る項目はありますか?
A.履歴書では転職回数を必ずチェックしています。例えば30歳で転職を4回している場合は、正直言って内容を見ずに落としています。20代だったら2社くらいまでが限度かなと。やはり長い就業をイメージしたいので、1~2年で数回転職している人は厳しいですね。転職理由は嘘をつけますが、経歴は嘘をつけないので。面接でケーススタディの質問をしますけど、基本的に転職回数が少ない人は転職理由も信用しようかなと思います。
職務経歴書は、いかに実績を具体的に書いているかというところと、工夫の内容をしっかり書かれているかというところですかね。
また、エントリーシートを10数枚書いて来る人もいますが、いかに簡潔に具体性をもったものを書けているかの方が大切なので、そういった場合も正直読んでいません。
Q.海外経験者の中途採用求職者によくする質問はありますか?
A.「どんな理由で海外に行ったか」、「海外に行ったときと日本に戻って来てからの気持ちの変化」、あとは「また戻りませんか?」ということです。海外に住んでいた人、特にアメリカは労働面で比較的自由らしく、日本はどちらかと言うと厳しかったりするので、そこになじめずにやっぱり戻りたいと思ってしまうのを避けるために聞きいています。
帰国子女であっても、海外で暮らしてどうだったかという具体性を聞きたいですね。何をやったかと聞くと英語力が身に付きましたとよく言いますが、それは当たり前ですから。それ以外の話が出てきてほしいです。
英語はビジネスにおいて手段であってゴールじゃない。英語がゴールだと思ってしまっている人が帰国子女の方に多い傾向があるので、それを使ってどうしたいのか、よく考えて転職活動に臨んでほしいですね。