人事にインタビュー!海外経験者のための初めての転職を成功させる秘訣
引地真さん
新卒入社後の20代で海外勤務を経験し、30代前半で初めての転職。その後も海外勤務や転職により様々な経験を積む。昨年までのおよそ10年は、通信機器メーカーの人事部門長として、人事・総務・財務経理など管理部門の責任者を務める。採用に関わった期間は8年に及び、中途採用についても書類審査から二次面接まで幅広く関わる。従業員100名未満の規模ながら、海外売上が70%以上を占め、外国人のスタッフや顧客との接点が日常的にあるという企業において、海外経験のある人材を優先的に採用してきた。
留学経験者専門の転職エージェント『Beyond Border』。
企業は海外経験者に何を求めて積極的に採用するのか。
ご自身も海外勤務や転職を経験した後、人事部門長として中途採用を数多く行ってきた引地さんに、詳しくお話を伺ってきました。
目次
マーケット拡大に伴い、重要になるのは“グローバルな視点と発想
Q.まず、中途採用を担当されていたときの企業について教えてください。
人事はいくつかの会社でしていましたが、直近で中途採用を担当していたのは通信機器のメーカーになります。従業員が日本に60名ほど、海外と合わせても100名弱の規模でしたが、その約半分をエンジニアが占めるという開発者の会社です。ビジネスのウェイトはヨーロッパや北米、オーストラリアといったエリアが高く、売り上げの7~8割は海外でした。そんな会社でしたので、エンジニアであったとしても、製品を開発していくには海外のお客様や法人と英語でコミュニケーションをとることが必須でしたね。海外の人たちと英語を使ってコミュニケーションがとれる、あるいはとるために頑張れる意欲がある、ということが中途採用の最低条件としてありました。
Q.エンジニアも海外経験のある方を積極的に採用されていたのですか?
海外の売上がぐんと伸びていくにしたがって、スタッフの採用も海外経験者を優先するように変わっていきました。私が中途入社して5年くらい経った頃からです。
Q.日本のものづくり業界は、これからどんどん小さくなる日本のマーケットだけではなく、グローバルで勝負するという企業が多いので、英語が話せるエンジニアも最近では多いと思います。ただ、英語が堪能に話せなかったとしても技術さえあれば、重要なのはグローバルな視点・発想で考えられるか、ということになってきますね。
海外経験者に求められるリーダーシップ
Q.エンジニアや通信機器業界において、グローバルな視点以外に一般的に求められる人材像はありますか?
マネージャークラスの中途採用を行う際にもう一つ重視していたのが、チームビルディングやマネジメントの能力です。海外スタッフも含めたマネジメント能力が求められていたのですが、実際にできる人はなかなかいませんでしたね。既存社員の中でもそれらが優れているという人材は多くなかったので、会社として常に求めていましたし、妥協することなく見つかるまで探す、というスタンスでした。
特にエンジニアは、海外のエンジニアや外国人のお客様とチームを組んで一緒になって開発を行っていましたし、自社のスタッフもいれば協力会社のスタッフもいるという環境で、それをどうやってマネージしてチームビルディングしていくのか、というのは20代だとしてもさせていましたので。20代後半であってもマネジメント的なことはできないと困る、といった状況でした。
Q.転職希望者がマネージャー職じゃなかった場合は、どのような部分が重視されるのでしょうか?
年齢に関係ないところで言えば、リーダーシップがあるかどうかですよね。人についていくだけではなく、自分が率先して何かを成し遂げられるかどうかが大事です。日本の大企業では、海外で新しいビジネスを作るといった経験を20代のうちにできるのは稀でしょうから、そういう意味では、海外でそういう経験がある人は一目置かれると思います。
世界最先端技術へのチャレンジ精神
Q.通信機器業界の中で、海外経験者が特に活躍できるのはどのような部門がありますか?
エンジニア部門は活躍できると思います。たまたま私がいた会社のお客様が、日本でいうとNTTよりも大きな、世界最先端の会社でしたので、そういう世界最先端の会社で自分たちの作った技術が使われているということは、やはりエンジニアとしてすごくやりがいを感じられると思います。すごく厳しいですけどね。従業員100人弱の小さな会社ですごくニッチな分野ですが、世界最先端で誰にも負けない、というものを作れるし、そのチャンスが多いです。また、世界のカンファレンスなどで、自分の技術開発成果をプレゼンテーションすることもできます。20~30代の若手でも、そんな舞台で世界トップクラスのお客様、しかも最先端の技術部長などを前に堂々と発表ができる、というチャンスがあります。
ところが、採用をしていたときに、そんな大それたことはできませんという学生が多いように感じたのはとても残念でしたね。
Q.プロジェクトベースで、長期で海外に滞在することはありましたか?
ありましたよ。20~30代であっても主としてやってこいと、他社では10年かけて学ぶことを3年で学べ、というようなところでしたから、やりがいも大変さもあります。でも、それにあえてチャレンジしたい、という意欲がある人を探していました。
おそらくそういったマインドは、若いときから海外に行って活躍し、自分自身でやりたいことを見つけてくるという人には分かるのではないでしょうか。ただ海外に行ったらいいのではありませんよ。ずっと日本国内にいる人よりも、海外に行って何かを見つけてきた人の方が、私のいた会社が求めるような人材に出会う確率が高いかなと思います。
ミスマッチを防ぐために注意すること
Q.海外勤務経験者を採用されたときの具体例を教えてください。
日本では無名な会社ということもあって、応募者は帰国子女や留学生よりも海外勤務経験者が多かったです。海外居住者や日本に興味を持っている外国人などとSkypeを使って何回も面接してきました。
特に印象に残っている例としては、日本で育って、日本の会社に就職して海外赴任した後に現地の会社に転職したけれども、何らかの事情で日本に帰らざるを得なくなった、という方を採用したことがあります。
Q.その方をいいなと思ったポイントは何ですか?
やはりそのマネジメント力ですね。海外の会社で日本人一人だけという環境で、現地のスタッフを何十人とマネージしていたという方なので。なかなかそういう経験をした人はいないので、会社としても思い切って好条件を出して獲得しましたね。
マネジメント力があるのとないのとでは、パフォーマンスはもちろん、周囲への影響力が違います。一緒に働くことで、ずっと日本にしかいなかった社員たちの目の色が変わってきたりもしますから。
Q.逆にこういう人は採らなかった、というパターンはありますか?
むしろ、会社が求めるようなマネジメント力がある方は需要が高いので、入社条件が厳し過ぎて採れなかった、ということがままあります。うちの会社の場合は条件だけでなく、やりがいや世界最先端のことができるといったことに共感していることが大事で、そこがしっかり合致していないと、入社後に結局はミスマッチだった、という人も現実にはいますしね。
採用過程で注視される具体的ポイント
Q.中途採用の書類審査において、よく見ているポイントはどういったところでしょうか?
何をやってきたかという中で、順調にステップアップしていったのかという部分はよく見ています。例えば、チームリーダーとして様々なことをしたけれども、その次に異動した別部門では明らかに役割後退してしまっている場合、そこには何かしら問題があるのではないかと考えてしまいますから。
Q.面接のときによく聞いていた質問はありますか?
大企業から来た人に対してよく聞いていたのは、「リソースが足りないときにどうやってカバーするように考えますか?」という質問です。会社の実情として、まさに人数が少なくてリソース不足という状況だったので。残念なのは、「上にかけあって他部署から人を回してもらいます」、という回答。大企業の中ではそれが最善策だったかもしれませんし、実際にそれで解決してきたのかもしれませんが、面接に来て話をしている以上、その方法はこの会社では解決策にならないと、気づかないといけませんね。
また、問題解決力やリーダーシップを見るために、「今まで困難な状況に出くわしたときにどのように解決してきたか」という経験談を聞いていました。
解決策のベストアンサーは状況によって変わりますから、大事なのは、そこにどんな問題があったのかを認識できているかどうかです。
単純に与えられたことをずっとやってきた人には、潜在する問題は見えづらいものですから。
例えば、納期に間に合わない事態となったとき、人手不足や不具合による遅延発生が根本的な問題だったと認識できるかどうか。表面的に見えている事象に対して、問題点の真の所在まで考えられているのか、というところを見ていましたね。
Q.トラブルの根源を探るのは、特にエンジニアの世界で大事だと言えますか?
そうですね。エンジニアはコーディングなどの単純作業だけではありませんから。20代の若手でも、入ってすぐに外注さんや海外スタッフともコミュニケーションをとりながら進めていく必要があるので、見る力・把握する力というのは大事ですね。
グローバルに仕事するうえで大切な“相手への理解
Q.採用にかかわらずお仕事をされるなかで、外国人の地域による特徴・接し方の違いなどはありますか?
地域による違いはあまりないと思っています。「外国人は簡単に謝らない」といったことはたしかにありますが、日本独特と言われる「根回し」は海外でもありますから。相手の言動を、相手の立場になって考えて理解ができれば、アメリカ人だから〇〇、中国人だから〇〇、という固まった見方はなくなります。日本の会社でグローバルに勝負していくには、特にこれから中国や新興国のマーケットが大きくなっていくなかで、様々な国の人と柔軟に付き合っていけることが求められます。そういう意味では、海外に行った経験がある人の方が、日本にずっといる人よりもそういう状況に触れるチャンスが多かった分、対応しやすいかもしれませんね。